経済ネタ:第1号 ①プライマリーバランスを黒字化すると私たちは貧乏になる?(その1)
新聞やテレビでプライマリーバランス(PB)の黒字化目標って時々報道されているが、何のことだろうか?特に、PBを黒字化すると私たちが益々貧乏になってしまうというのだから大問題だ。この事は、私たちの生活に直結する重要な問題なので、何回かに分けて説明していきたいと思う。
プライマリーバランスの黒字化のことを説明する前に、分かり易くするため、まずは政府の支出について説明してみよう。政府の支出は大きく分ければ、①国債の償還、②国債金利の支払い、③その他の支出(公務員給与、医療費、介護費、教育支出、防衛費、公共投資、社会保障(年金等)等と「その他の支出」が一番大きい。
プライマリーバランス(PB)の黒字化とは、①国債の償還、②国債金利の支払いを除いた、③その他の支出の財源を必ず税金で賄い、国債増発に求めてはいけないということである。PB黒字化を厳密に守ろうとすると、「財源がないなら支出禁止」、「支出したいなら増税!」ということになる。
例えば、東日本大震災が起こった際、復興する為に、復興増税(復興特別所得税)を導入した。PB黒字化の観点から、他の予算を削るか、増税しかなかったから、増税を選んだ。本来、建設国債を発行すれば良いだけなのに、PB黒字化の大義名分の下、震災が口実に増税されてしまった。しかも、復興特別所得税は被災地からも今でも徴収している。先進国でこんな残酷な税を被災地の国民にも課している国はない。
ここで、何故、増税ではなく、建設国債の増発をやらないか?という疑問である。建設国債を発行すれば、増税をする必要がなくなり、極端にいうと、消費税の増税も要らなくなる(反対に消費税率を8%から5%に戻すことも可能)。国債の発行は政府の借金が国民に対して増えるという事である。政府の借金の債権者の9割は国民である。国民が政府にお金を貸しているのだ。
(※厳密にいうと、国民には法人も含まれており、その国民が銀行に預金をしており、その預金は銀行にお金を貸していることになり、その預金を使って各銀行が国債を買っている。だから、間接的ではあるが、そのお金の元は国民のお金という事になり、政府が国債発行して借りるお金の貸手は国民という事である。)
それが、いつの間にか、政府の借金が、国の借金と名称がすり替わってしまい、国(国民も国の一員)の借金と読み替えてしまった為、イメージとしては国民が負担している借金というように捉えてしまっている。
以前に国の借金は1000兆円なので、赤ちゃんも含めた国民一人当たりの借金は800万円というような報道を聞いたことがあったと思う。実際には、国民一人当たりが政府に対し、800万円の債権を持っているというのが正解なのだ。これもマスコミはこの事を分かっていても言わない。
しかし、政府の借金といえども、借金なので、返済しないといけないと一般的には考える。私たちも、大黒様にお願いはしているが、国民全体としては、給料は下がり、手当もカットされ、消費税の増税のおかげで、益々生活が苦しくなっている。
だから、どうしても、個人的な借金が増えているが、できるなら借金は増やしたくない。借金はいずれ返済しないといけないからだ。借金は将来に負債を繰り越すだけで、結果として、将来の生活を苦しめるので、やはり借金はしない方がいい。個人的にはこの感覚は正しい。
しかし、政府や会社は実は個人とは根本的に借金の捉え方が異なるのだ。個人では生涯所得よりも生涯負債が低くあるべきである。一生の間に借りたお金が完済できる事が最善であるとされる。子や孫に借金を残すのは良くないと誰もが考える。
しかし、政府や会社の概念は永続する事が前提となっている。個人のように死んで、現界的、体的存在が無くなることを前提としていない。例えば、日本政府は、その起源を考えれば、明治時代からとなるが、数々の戦争や天変地異を経験しながらも、今でも破たんすることなく続いている。
明治時代、例えば、1872年時点の政府の負債と2015年時点の政府の負債を比べると、3740万倍になっている。インフレ分を除いた実質の金額でも、1885年と比べて2015年時点で546倍になっている。
経済成長をする時は必ず政府の負債(建設国債発行、時に赤字国債も発行)は増える。何故なら、その反対側で国民の資産が増えるからだ。(国民、大きな意味では法人も含めて政府の借金の債権者(貸主)である。)
「国の借金で大変だ!」などと言う人は、1872年と比べて3740万倍になっている政府の負債を、どう解釈して説明してくれるのであろうか?
国債を発行すると、政府の借金が増える。これは確かだが、いつも日本円建ての借金を我々国民に行っている。そして、その日本円、日本銀行券を発行しているのは、日本銀行である。
その日本銀行は政府の子会社で、連結上はグループ会社として会計上は一つの法人として扱われる。その日本銀行と政府には日本銀行券、即ち日本円を自由に発行する通貨発行権が与えられている。いつでも、日本円を発行して、日本銀行は政府の国債発行の債権を買い取ることができるのだ。しかも、政府は日銀に返済する必要がない(連結しているから)。
実際にこの4年余りの間に、日本銀行は300兆円以上も政府の借金を買い取った。よって、1000兆円あった政府の借金が600兆円台まで減っているのである。政府の借金の9割以上は国債である。日本円建ての国債しか発行していない日本の場合、日銀が買えば債務不履行にならないのだ。いわゆる[国の借金問題」などは存在しない。政府は日本円建て国債を発行して借金しても破たんしないのだ。
だから、プライマリーバランスを黒字化するという目標の為だけに、増税を国民に強要したり、他の予算(福祉や教育費、公共事業等の予算)をカットするのは愚かな行為と言えよう。政府がある必要な予算を計上する時に、国債を発行しないというのは、ナンセンス以外の何物でもないという事が分かると思う。
国債を発行しても、政府の借金は日銀が日本円を発行して、買い取れば良いだけである。何故、我々を苦しめる増税を行おうとするのか?必要な予算を削って、サービスの改悪を行うのか?
消費税を5%から8%に上げた増税で、私たちの生活は直撃され、誰もが感じていることであるが、年々貧困度が上がってしまっている。だから、プライマリーバランス黒字化目標が私たちを貧乏にしているという事が、お解り頂けたと思う。
次回はさらに進んで、プライマリーバランス黒字化目標が、もっと深刻に、我々を貧乏にしている根本原因について、更に核心に触れて、説明していきたいと思う。